諸々日記

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通過儀礼

文字数1000字です。
よろしくお願いしま~す







 駅にほど近いところにある百貨店。その入り口前のちょっとした広場は、しばしば人々の待ち合わせ場所として利用されている。彼女も現在そこで、恋人が来るのを待っている一人だった。
 実のところ、待ち人が来るかどうか、彼女にはわからなかった。それでも彼女は、既に一時間以上そこに立っていた。冬の空は雲もなく澄み切っているが、気温は低い。日も陰ってきていて、辺りは次第に夕方の様相を呈している。コートの下の身体は冷え切っていた。目と鼻の先にある百貨店の中で、少しだけ暖を取ろうかと彼女も考えないではなかったが、その間に彼が来たらもしかしたら見逃してしまうかもしれないという思いが、彼女をそこに縛り付けていた。
 彼女は数時間前、突然メールで別れを告げられていた。端的な文章で、『別れたい』とだけ、携帯のディスプレイに表示された。
初めは自分の見間違いや携帯の故障だと思った。そうではないとわかっても、今度は彼からその言葉を投げかけられる意味がわからない。
彼女は、『何かの冗談のつもり? あっ、わかった。誰かと送り先間違えてるでしょ』と返信した。すると彼から携帯に電話がかかってきたのだ。さては謝りの電話だなと思い通話ボタンを押した彼女の耳には、メールと同じ短い台詞が、彼の口から繰り返されることとなった。
 彼は理由を説明してくれた。価値観の相違だとかお互いの将来のためだとか様々な理屈をつけてくれた。だが彼女の頭に強く残っているのは「お前といるのは疲れた」という、本当に疲れ切っているような彼の嘆息混じりの台詞だった。
 彼女は「会って話し合いたい」と訴えたが、電話の向こうの彼は難色を示していた。
「来なくても、ずっと待ってる」
 そう言って、彼女は家を出た。
 彼はきっとこないだろう。彼女は内心そう考えている。それでも彼女は待ち続けている。彼女はまだ、「もしかしたら」という想いを捨てきれない。
 これは恐らく通過儀礼なのだと彼女は気づいている。
メールだけでは実感がなくて、電話だけでも信じられなくて、だから会いたいと思って待ち合わせをした。それで彼が来なければ、彼の想いが離れたのは確定的で、自分は失恋をしたのだと嫌でもわかるに違いないと考えた。
待ち続ける彼女の身体を、冷たい風がなぶった。
 佇む彼女の身体が、ぶるっと激しく震えた。
 それでもわからなかったらどうしよう。
 その不安だけが、彼女の胸に迫っている。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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