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諸々日記

雑記を書くスペース → 小説置き場へと変貌中。→再び雑記置き場へ?

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文字数860字。











 男は人気のない駅のホームに一人立ち、列車が来るのを待っている。
 始発列車は雪の影響で十分ほど遅れているようだった。屋根のない薄暗いホームで、既に冷たくなったコーヒーをすすりながら彼は列車を待つ。しんしんと降る雪は、辺りの音を吸収する。男はぼんやりと濃紫色の空を見上げ、自分の白い呼気が虚空に消えていくのを眺めている。
 東京にいた頃なら、これほど待たされたら男はとうに立腹しているであろう。しかし、憤慨している自分を想像すると、その様がずいぶん滑稽なものとして男には映る。ホームに男以外の客がいないことや、都会にはない単線の列車であるということが影響しているのだろうかと考える。ここの空気は不思議と男から怒気を奪い、代わりに穏やかさを与える。
 ホームと直結した改札。そこからようやく別の乗客が現れた。腰の曲がった老婆が、小さい身体には若干不釣り合いなほど大きな荷物を抱えている。それと前後して、遅れた列車が静かにホームに入ってきた。一両編成の小さな列車。ドアが開く。男は肩に乗った雪を払い落とし、列車へ乗り込む。
 列車内の暖かさにほっと息をつく。座席に着いた時、男はふと視界の端にある何かに気づき、顔を上げ窓の外に向けた。
 キツネが男の顔を見ていた。
 すぐに列車は動きだし、キツネの姿は窓枠の外へ流れ、見えなくなる。男は今の光景を頭の中で再生している。誰かが飼っているわけではないだろう。確かに自然に溢れた土地ではあるが、駅前のような人間の生活圏となっている地区にも野生のキツネが現れるものなのか、と男は新鮮な驚きを覚えていた。
 列車が進むほど、建物は減っていき、辺りは雪の厚く積もった見晴らしの良い大地が広がっている。その雪の下には、夏の間は稲や野菜が実っているのだろう。ビニールハウスの骨格が、雪に埋まったまま、自身の出番となる春を待っている。
 列車の進む速度は、普段男が乗り慣れているものと比べるとずいぶんゆったりとしている気がする。それがこの土地で生きる人々にとっての時間の流れる速さなのだろうと男は一人考え、冷えた指先を温めていた。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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