諸々日記

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文字数5400字。
ジャンルはホラーです。

あらすじ:
ナンパに成功した主人公。
ドライブ中、話を繋げるために、テキトーに視界の左側に見えた湖についての怪談をでっちあげる。
すると、女の子が「湖に行ってみたい」と言い出して──


作品についての詳細はトップの記事の『read more』をご確認下さい。









「そうだ、この話は聞いたことある? ここら辺で起きたことなんだけどさ」
 俺は助手席に座っている女の子に話しかけた。すると、窓の向こうを流れていく景色を眺めていた彼女は顔をこちらに向けて、どんな話、と聞いてきた。興味を持ってくれたようだ。オレは内心ほっとした。
 ナンパに成功したはいいが、彼女はあまり喋らず、こちらが話を振っても曖昧に頷くだけでつまらなそうにしていた。これはまずい、と思ったオレはとにかく話を切らさないようにしていたが、彼女が食いついてきたのはこれが初めてだった。
 だが、ほっとした反面、困ってもいた。さっきの言葉はテキトーに口をついて出ただけで、こんな山道、通ったのも初めてだ。
 オレは「えーと、あれ? なんだっけ。ははは」なんて笑って誤魔化したが、彼女が怪訝な顔をし出した。やばい。曲がりくねる山道に合わせてハンドルを切りながら、オレはなんて繕おうか必死に考えていた。
 その時、左側に湖が見えてきた。
「そう! あの湖にまつわる話だよ。少し怖い話かもしれないけど、聞く?」
 オレは咄嗟にそう言った。すると、彼女は初めて見せる笑顔で答えた。
「聞きたいな。私、怖い話結構得意だから」
 オレは笑って──心の中では冷や汗を流しながら──話の続きを始めた。全てデタラメのフィクションだが、ここまできたら後は当たって砕けろだ。
「……ここの湖にはね、殺された人間の怨念が宿ってるらしいんだよ。以前死体がこの湖に沈められたらしいんだけど、それ以来、水の上をずぶ濡れの女が歩いてたとか、毎晩悲鳴が聞こえるとかおかしな話が出てくるようになったんだって。だからオレも怖いもの見たさで来てみたんだけど、噂は本当だったんだよ。湖の真ん中に人が立ってた。いや、マジで。最初はボートに乗ってる人だろうって思ったけど明かりもないからね。暗くてよく見えなかった。つうか、そもそも『こんな時間にボートなんか乗るかな普通』って思ってさ。そうしたら、ちょっと目を離した隙にその人影はいなくなってて、それと同時に何かが水に落ちたような音がしたんだ。なんか気味悪くなったからそのまますぐに車で帰ってきたよ」
 ──我ながら、よく口が回るものだと感心した。
 黙ってオレの話を聞いていた彼女を横目に見たが、彼女は表情を変えずにじっと前を見つめていた。顔色が青ざめているようにも見える。
「ごめん。気分悪くした? 顔色が悪いけど」
 彼女はこちらを見ると、優しく微笑みながら首を横に振った。
「ちょっと車に酔っちゃっただけ。ねえ、その湖行ってみたいんだけど、いい? 酔いさましにもなるだろうし」
「え?」
 思わず彼女の顔を見ると、彼女は相変わらずこちらを見ながら微笑んでいて、その表情がとても可愛かった。しかし、まさか「行きたい」と言い出すとは思わなかった。オレは時計をちらりと見た。既に六時を回っている。太陽も稜線にかかり、あと三十分もすれば完全に沈むだろう。
「いいけど、もうすぐ暗くなるし、帰るのも随分遅くなるよきっと。大丈夫?」
「うん。私こういう話好きなの。それに」
 彼女はオレの脚の上に手を置いて言った。
「もし何かあったとしても、守ってくれるでしょ?」
 その言葉は、オレの心の中にするりと入り込んできた。
 彼女の手に自分の手を重ねてみる。すると、彼女は自分から指を絡め、固くオレの手を握ってきた。
 自分でも現金だとは思うが、ただのナンパだったはずが本気で脈ありと見ると急に彼女のことが愛おしくなってきた。マジで惚れてきたかな、と頭の中で独りごちた。
「期待されればされるほど力を発揮するタイプだから、オレ」
 オレは笑いながらそう言って、車を湖へ向けて走らせた。車は舗装されていない細い道に入り、車体をがたがたと揺らしながら進んでいく。


 湖近くに着いた頃には予想以上に暗くなっていた。
 細道はしばらく進むと行き止まりに当たった。道幅が広くなりUターンできるくらいのスペースが現れたと思ったら、その先は木々が密集していて車では進めない。
 人が通れるくらいの更に細い道が湖の方へ続いていた。オレたちはその道を手をつないで歩いた。途中で何度か木の根につまずきそうになったが、百メートルほどで林が切れ、湖の畔に出た。
 オレたちはしばらく水辺で話をしながら何かが起きないか待っていたが、何かが起きる気配は全くなかった。当然だ、オレの作り話なのだから。
 いい加減切り上げて、もう少しムードのあるところで二人きりになりたかった。もう腕時計の針が何時を指しているかも暗くてろくに見えない。
「あれ、ケータイがない」
 しかし、オレが「帰ろうか」と言う前に、彼女がそう言い出した。
「え、嘘? ないの?」
「うん。ちょっと車見てくるね。鍵貸してくれる? 車に懐中電灯があったらそれも貸してほしいな」
「懐中電灯はダッシュボードの中にあるけど、だったらオレも行くよ。暗いし危ないでしょ」
「ううん、大丈夫。じゃあさ、この辺りを探しておいてよ。ね? ちょっと急いでいってくるね」
 鍵を受け取ると彼女は走っていった。本当に怖くないのだろうか。そんなことを考えているうちに、彼女の姿は闇の中へ消えていった。
 途端に不安が襲ってきた。今まで見たホラー映画が何故か頭に思い浮かぶ。オレはその考えを必死に振り払おうとした。
 その時、林の中からがさりと音がした。ぎくりとする。振り返るが何もいない。見えない。
 風で葉がざわめいただけだとわかっているのに、恐怖を感じるのは何故だろう。
 考えを紛らわすため、オレは足元にケータイが落ちてないか探し始めた。しかし、暗くてわからない。さっき交換したアドレスに電話をしてみようと思ったが、圏外でできなかった。仕方がないので、ケータイカメラのライトを利用して辺りを照らす。この闇の濃さと比べると随分と頼りない光だったが、それでも辺りをくまなく探してみた。
 しばらく探し回ったが、どこにも見当たらない。
 彼女の方を見に行こうかと林へ振り向いたその時、左手の方角で水音がしたのが聞こえた。オレは思わず動きを止めた。さっき自分が話したデタラメが頭に蘇る。
 まさかとは思いつつも、オレは湖に近づいて恐る恐る様子を窺った。
 ここからは林が邪魔になって向こうに何があるのかはよく見えないが、水面に大きな波紋ができている。何かが落ちたのだろう。波立った水面に光が反射している。そこで、先ほどまで厚い雲に覆われていた月が顔を出したのだと気づいた。
 落ちたものはなんだろうと考えると、背筋が寒くなった。一番悪い考えが頭をよぎる。
 オレは彼女の元へ走り出した。
 車を停めていた場所へたどり着く。
 最初に目に入ったのは、あるはずの車がなくなっていることだった。
 オレは混乱した。彼女の姿もない。
 ── 一体何が起きてるんだ!
 オレは彼女の名前を呼んだ。辺りを見回す。月明かりのおかげか、かろうじて周りの様子を確認できる。
 そして、倒れている彼女を発見した。身体中の血が冷たくなった。
 だが、抱き起こして安心した。生きている。しかし、頭に怪我をしているのか、血が流れている。彼女は軽くうめくと、ゆっくりと眼を開けた。寝惚けたような表情でこちらを見ている。
「大丈夫? 何があった?」
「……よくわかんない。私、倒れてたの? どうして」
 だんだん意識がはっきりしてきて恐怖が甦ったのか、彼女はオレにしがみついて震えだした。
「あまり覚えてないの。ごめんなさい。ただ、車の鍵を開けようとした時に、何か白いものが視界を横切ったような気はする」
「白いもの? おいおい、そんな──」
「本当なの。ねえ、もう帰ろうよ。私、怖いよ。こんなところに来たいなんて言うんじゃなかった。本当にごめんなさい」
 先ほどまであれだけ強気だった彼女が怯えている。よほど怖い思いをしたのだろう。オレも早くこの場から離れたい。しかし。
「車がなくなってるんだよ」
「え? ……嘘。なんで!?」
「知らないよ。オレだってわけわかんないんだよ。ここに来た時にはもうなかったんだ」
 彼女は絶句している。無理もない。オレも彼女がいなければ取り乱していたかもしれない。
「とにかく、早いとこ帰ろう。車の通る場所まで出られればここにいるよりはひとまず安心だろ」
「うん」
 しかし、立ち上がろうとした彼女は突然「痛い」といってまた地面に座り込んでしまった。
「どうしたんだよ?」
「足が痛いの。それに、なんだか頭もぼんやりして……」
 オレは彼女の怪我のことを失念していたことに気づいた。
「挫いたのかな。それじゃあ歩いていくのは無理か。でも、どうしよう」
 まさかここで夜を明かすわけにもいかない。そこで、さっきの不審な水音を聞いた時のことを思い出した。様子を伺った際に、湖の脇に小さな小屋が建っていたのが見えた。おそらく湖の管理小屋か何かだと思うが、あそこへ行ってみよう。もしかしたら何か手当てできるものも見つかるかもしれない。彼女を休ませて、オレが助けを呼びに行けばいい。
 このことを彼女に話すと了解してくれたので、オレは彼女を背負って湖の方へ足を向けた。水辺沿いに行けば迷うこともない。


 それはボートの管理小屋だったが、今は使用されていないようだった。シーズン外だからかもしれない。
 入り口には鍵がかかっていたので、窓を割って中に入った。月明かりが差し込んで周りが十分に明るいのは助かった。
 救急セットを見つけて、彼女の怪我を手当てする。足が折れているわけではないし、頭の怪我も軽いようだ。しかし、ショックが大きいようなのでやはりここで彼女を休ませることにした。
 一通り終わったのでオレが行こうとすると、彼女はオレの腕を掴んで「いかないで。一人にしないで、お願い」と言った。
 オレは彼女の願いを聞くことにした。助けを呼びに行くのは日が昇ってからだ。
 横になると頭が痛いようなので、オレたちは壁を背にして座り込んだ。
 オレが眠ることを促しても、彼女はしばらくそれを拒んだ。オレの腕にすがりつきながら怯えていた。オレは彼女の髪を撫でるなどして気持ちを落ち着かせようとした。自分も怖かったが、彼女の前でそんな無様なさまを見せるわけにはいかない。
 しばらくそうしているうちに、ようやく彼女も眠りについたようだ。オレの肩に頭を預けながら静かな寝息を立てている。
 オレはほっとした。寝る前に彼女がくれたお茶を飲む。しかし、またにわかに恐怖が蘇ってきた。余裕ができたことで余計なことも考えてしまう。
 草葉のざわめきや何かが水に飛び込んだ音。消えた車。彼女が見たという白い影。
 まさか、本当に何か『出る』のだろうか。
 オレはその考えを必死で振り払った。こんなことになるなら嘘の噂話なんてするんじゃなかったと後悔した。
 しばらく頭の中で『今まで見たホラー映画 傑作選』がぐるぐると同じシーンを上映していたが、急に睡魔が襲ってきた。意識が曖昧になっていく。
 頭がこっくりと落ちた。遠のきかけていた意識が不意に引き戻される。顔を上げて、眼をしばたたいた。
 いつの間にか目の前に、髪の長いずぶ濡れの女が立っていた。
 声を出す前に、女から伸びた何かがオレの手足を拘束し、口を塞いだ。
 髪の毛だ。髪がオレを縛り上げている。
 女は次に隣で寝ている彼女を拘束した。
 突然のことで何が起きているのかわからない彼女。悲鳴を上げたが、その口もすぐに塞がれた。彼女は大きく目を見開いている。動転と困惑が伝わってくる。
 オレは力を入れて拘束から逃れようとしたが、びくともしない。髪がより強く締め上げてくる。身体に食い込んだ部分から血が滲んでいる。
 手足を縛られた彼女は、そのまま宙に吊られた。もがいても逃げられない。そんな彼女の様子を、女は恐ろしい形相でじっと見つめている。
 どこからかモーター音が聞こえてきた。オレは眼だけを動かして音の主を捜した。
 それは、女が髪で操っているチェーンソーの音だった。
 オレは全力で足掻いた。だが、逃げられない。
 チェーンソーの刃が彼女の身体に触れた瞬間、嫌な音がした。オレはそれをただ見ていることしかできなかった。
 
 
 オレは絶叫しながら目を開けた。
 目の前には星空が広がっている。女は消えていた。さっきまでの光景と今の状況が繋がらない。
「夢……?」
 オレは荒い息をしながら呟いた。そうか、夢だったのか。全身汗をかいていた。
 だけど、ここはどこだろう。あの小屋じゃない。それに、女もチェーンソーもないが、モーター音はまだ聞こえている。
「夢を見てたの?」
 足元の方から彼女の声が聞こえてきた。身体を起こそうとしたところで異変に気づいた。
 縛られている。
 何が起きているのかわからなかった。モーター音と共に波の音が聞こえる。オレはモーターボートに乗せられているのか。
 身動きできないオレを、彼女が覗き込んだ。
「どんな夢? あんなにうなされていて」
 笑っていた。今まで見たことのない、凄絶な笑みを浮かべていた。
「よっぽど楽しい夢だったんだろうね。クスリのおかげかな」
 頭を埋め尽くすほどの疑問がわき上がってくるがしかし、オレはそれを言葉にすることができなかった。
 その細い身体にどこにそんな力があるのだろう。彼女がオレを苦もなく担ぎ上げた。目の前に星明かりが反射する水面がある。まさか。
「貴方が本当に見たのかどうかは知らない。でも、可能性があるなら仕方ないよね。短い間だったけど、楽しかったよ。それじゃあね」
「な── !」
言う間もなく、オレの身体は湖の中へ投げ込まれた。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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