諸々日記

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見える

文字数1500字。
ジャンル:ホラー

あらすじ:
最初は気のせいだと思っていた。
それがだんだんと輪郭をはっきりとさせ、主人公に迫ってくる。


作品執筆の背景については、『更新情報』の「readmore」をご覧下さい。






  
 帰宅途中、その男は視界の端に人の顔のようなものが見えた気がした。
 はっとしてそちらを振り向くが、そこには誰もいない。
 瞬間、彼は怒りに身を任せて叫びたい強い衝動に駆られたが、ぐっとこらえ、代わりに塀に拳を叩きつけた。
 しかし、もはや限界に達していた彼の感情はそのくらいでは収まってはくれないようだ。
 何故自分がこのような目に遭わなければならないのか。そう考えると男は泣きそうになったが、涙は出なかった。何度か拳を塀に打ちつけながらもなんとか感情を抑えると、彼はまた自宅へと歩き出した。
 コンクリートに打ちつけられていた彼の手からは、皮が裂け血が滲んでいた。だが彼は痛みを感じていなかった。今は、早く家へ帰ることだけを考えていた。


 彼が「おかしい」ということに気づいたのは、もう一カ月も前のことだった。
 最初はただの錯覚だと思っていた。何かいたような気がしてもう一度見直してみるが何もない、なんてことはままあることだと、彼はそれを特に気にしていなかった。
 しかし、それの頻度が徐々に増えていることに彼は気がついた。週に一度程度だったものが、今では何も見ない日はない。見えるものの映像も少しずつクリアになってきていた。ただの白いもやが、日が経つにつれ次第に形を持ち、もはや既に完全な人の形をしている。直視しようとしてもそこには何もないのではっきり見てはいないのだが、それは髪の長い不気味な表情をした女のように見えた。
 自宅へ黙々と歩き続けている今も、彼の視界の端にはその女がちらりちらりと姿を現している。電柱の陰、塀の上、植え込みの向こう側、曲がり角。どこにでもその女は姿を見せる。
 今まであちこちの寺や神社を回ってみたが、効果はない。どうすることもできないので無視を決め込もうと今まで耐えてきたが、遂に耐えきれなくなってしまった彼は仕事にも支障が出始めた。上司にも「病院へ行け」と言われ、今日行ってきたところだったのだが。
「統合失調症でしょう。いわゆるノイローゼですね。あなたの見ているものは、幻覚です」
 医師の言葉を聞いた彼は、はらわたが煮えくり返る思いがした。
 ──俺が見ているものは本物だ。幻覚なんかじゃない!!
「おかしいのはお前らの方だ」と吐き捨てて、彼は診察室を飛び出してきてしまった。
 時間が経つにつれ、医師に対しての怒りは、視界の端でちらちらと姿を見せ続ける謎の女に対する憎悪へと変わっていった。
 ──全てはお前が元凶だ。


 自宅へたどり着いた彼は電気をつける間も惜しいらしく、すぐさま台所から包丁を持ってきた。そして女がまた現れるのを待った。
 自分で解決するしかない。それが彼の怒りが導いた結論だった。彼は、自分が時折「殺してやる」と呟いていることに気がついていなかった。
 しかし、包丁を手に台所で女が現れるのを待っていたが、あれほど執拗だった女が何故か姿を見せない。彼は夜中の3時までじっと機会を窺っていたが、何も出てこない。仕方がないので彼は包丁を片づけ、寝室に向かった。
 彼はベッドに座り込み、何故女が現れないか考えている。いろいろ考えられたが答えはでない。
 ふと、誰かに見られている気がしてはっと周りを見渡した。武器になるものとして、足元に転がっていたダンベルを拾い上げる。
 電気のついていない部屋は暗かったが、カーテンを通して薄明かりが差し込んでいて周りを見るのに支障はない。部屋には誰もいなかった。人の姿が見えるのは、机の上に置いてある鏡に映った自分の姿だけだ。
 その自分の顔が、あの女の顔に変わっているということに気がついた。
 彼は笑った。
 ──やっとみつけた。
 躊躇せず、彼は手にしていたダンベルで自分の顔を潰した。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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