諸々日記

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灰色シンドローム

新年ですが変わらぬテンポで行きたいと思います。


今回は文字数約3700字です。
ジャンル:日常小説?

あらすじ:
一面雲に覆われた空は、僕を不安にさせる。
雪が降り出し、冬の訪れを感じる。地元にいたころは、この時期ならとっくに雪が積もっている頃だったのに。
もう少し雪の降る街の空気を感じていたい。そう思った僕は、散歩をしてから帰ることにした。
そこで、僕は一人の少女と出会った。

作品執筆の背景については、『更新情報』の「readmore」をご覧下さい。












 突然吹いた冷たい風が襟元から入り込み身体をなで、僕は思わず首を縮めてぶるっと震えた。深く吸い込んだ息が、白い吐息となって吐き出される。
 マフラーを巻き直し、コートの前をあわせながら、ふと空を見上げた。
 厚い雲が天を覆っていて、今にも泣き出しそうな天気だった。鉛色に塗りつぶされた空は、僕を物寂しく、不安な気持ちにさせた。のっぺりとして陰影がないため、じっと見つめていると空が目の前に迫ってくるように錯覚する。
 ──雨が降り出す前に帰ろう。
 先ほど買ったばかりの本をコートの内ポケットに入れると、僕は自宅へと向かう坂道をまた上り始めた。
 
 
 長い坂を上りきったとき、遂に天気は崩れだした。
 だが降ってきたのは冷たい雨ではなく、白くて小さく、簡単に風に舞うような儚い雪だった。
 僕はもう一度天を見上げた。降る雪は少しずつその量を増しているようだ。
 ああ、もう冬なのか、と考えた。同時に、そう考えた自分に小さな驚きを感じた。地元にいた頃ならこの時期に雪が積もっていなければ遅いくらいなのに。僕もすっかりこっちの暮らしに馴染んでしまったらしい。諸行無常、という単語が頭に浮かんだ。
 馬鹿みたいに空を見つめていた僕の脇を人が通り過ぎた。我に返った僕は、気恥ずかしい思いをしながらもまた歩き出した。しかし気分が落ち着かない。
 このまま帰るのは、何かが違う気がする。
 きた道を振り返ってみた。小高い山に造られた住宅地なので、ここまでくれば街をほぼ一望できる。
 大きいビルが建っているのは中心地だけで、あとは同じような大きさの建物が所狭く並んでいる。その隙間を縫うように走っている道路。緑地を残すため住宅地のところどころに雑木林があるのだが、木々はすっかり葉を落とし今は枝が並んでいるだけで、今年の役目は既に終えているようだ。
 色のない世界とはこんな感じなのだろうと思った。
 だが、その街が徐々に白く染め上げられていく。
 ちらちらと降る雪を眺めていると、もうしばらくこの空気を感じていたい、そんな気がした。
 腕時計に目をやった。まだ時間はある。
 気分を落ち着けるためにもこの辺りを散歩してから帰ろう。そう思い立った僕は、踵を返した。
 
 
 ここに住みだしてからずいぶん経つが、周囲を巡るのは初めてだった。
 なかなか広い庭がついた一軒家が多かった。時にはバレーボールコートくらいの面積の庭を持つ家もあった。自分のアパート周囲の一戸建てとはずいぶんと趣が違う。少し場所を変えるだけで地域の印象も変わるものだな、と感心した。
 その庭つきの家のひとつに、大きなモミの木があるのを見つけた。四メートルくらいはあるだろうか。
 敷地を囲う鉄柵越しにそのモミの木を眺めながら、これがクリスマスの準備だとしたら少し気が早いなと思ったが、この大きなツリーを部屋の中から眺めながらクリスマスを一家団欒で過ごす家族を想像すると口もとが緩んだ。
「なにしてるの?」
 そこに突然声をかけられた。
 振り向くと、そこには小さな女の子がいた。僕をじっと見つめている。その顔を見て僕は驚いてしまった。
「ねえ、なにしてたの?」
 少女は呆気に取られていた僕にもう一度尋ねた。
 「あ……ここのおうちの木が立派だったから、つい見入っちゃったんだよ。えっと、ここはきみのおうち? だったらごめんね。人の家をじろじろ見ちゃって」
「ううん、ちがうよ」
 そう言いながら少女もモミの木に目を注いだ。
 ──一人で笑っていたところを見られただろうか。
 気まずい。
 少女はしばらく真剣にモミの木を観察していたようだったが、不意に僕の顔へ視線を戻すとにこやかな顔で口を開いた。
「おにいちゃん、いいもの見せてあげようか? この木よりももっといいもの!」
「え?」
「こっちこっち」
 答えを聞く前に少女は僕の手を引いて歩き出した。わずかに逡巡したが、特にあてがある散歩でもないので少女の手に行き先を委ねてみることにした。
 少女の冷え切った小さな手はしかし、力強く僕を導いていった。
 
 
 少女が連れてきた場所は、この小高い山の頂上にある公園だった。
 山の上に林があるのは知っていたが、そこが公園だとは知らなかった。住宅地にあるものにしてはずいぶんな広さを持っているようだ。緑地保護を目的とした区画整理によって住宅地の一部を利用して造られたものらしい。案内板にこの公園の沿革が記されていた。この街で最も標高の高い場所にある公園のようだ。
 雪は依然として降り続けており、街は薄いヴェールに覆われたようだった。公園も例外ではなく、入ってすぐの広場には白い絨毯が敷かれている。広場を取り囲むように並ぶ木々も、既に葉を落とした枝の上に雪が被さっており、白い花が咲いているようにも見える。
「こっちだよ」
 少女は僕の手を離すと、白一面の大地にしっかりとした足あとをつけながら広場の奥へ走った。
 せっかく積もったのにもったいないな、と僕は苦笑いしていたが、僕がついてきていないことに気づくと引き返してきて、再度僕の手を引いて歩き出した。
 ふと、さっきまであんなに冷たかった少女の手がいつの間にか熱を持っていることに気づいた。それは春の日の太陽みたいな温かさだった。
 少女は時折僕を急かしながら木立の間を進んでいく。彼女の頬は寒さで紅潮していたが、その表情は、これから見せるものに対して僕がどんな反応をするか楽しみにしている様子がありありと浮かんでいた。
 彼女はずんずん進んでいく。ずいぶん奥に入ってきた気がしたが、僕はここが山の頂であることを思い出した。
 まさか、目的の場所は山を下った先にある、などと言い出さないだろうか。実際少し前から、わずかな傾斜ではあるがしかし確かに下り坂を歩いている。
 だが心配は無用だった。僕がにわかに焦りだしてすぐに、「ここだよ」と言って少女は歩みを止めた。
 そこは林も終わり見晴らしのよい場所だった。遠くの方まで山と谷が続いている。微かな雲の切れ間から太陽の光が差し込んでいて、その光景は神秘的なものだった。
 少女の見せたかったものはこれだろうか。彼女の顔を見る。すると少女はとても誇らしげに僕の顔を見返して、そして僕の背後を指さした。その指の先を目で追う。
 そこに、巨大なモミの木があった。
 圧倒的だった。幹の太さも、丈の高さも先ほど見たものとは比べものにならない。少なくとも十五メートルはあるのではないか。
 周囲の木々は完全に落葉している中、このモミの木だけが依然として深い緑色を携えている。葉の上にほどよく雪が乗ったその姿はまさしくクリスマスツリーで、映画の中くらいでしか見たことのないそのスケールに、僕はしばらく自分がどこにいるのかを忘れた。
 ぽかんと口を開けて見ていたら、葉から滑り落ちた雪が口の中に入ってきた。それを見た少女はけらけらと笑った。
 改めて、ああ、もう冬なんだ、と考えた。街も今頃は白に覆われているのだろう。白く染まることで、街は色を取り戻していくに違いない。
 感じていた不安な気持ちはいつしか消えていた。寂しさはまだ残るが、それは温かい寂しさだ。
 こんな巨大な木に何故今まで気づかなかったのかと思ったが、位置的に街からは見えないことに気がついた。ここは、わずかとはいえ下り斜面だし、木立もある。周りの木よりモミの木の方が大きいのだが、何せこの公園は一番上にある。つまり街側からこの場所を見るときは下から見上げる形になるため、丈の差が差し引かれることで木立に隠れて見えなくなるのだろう。
「どう?」
 少女が期待で眼を輝かせながら尋ねてきた。
 きっとこの子は僕がどう答えるかわかっているのだろう。わかっていて、聞きたがるのだ。言ってもらいたいのだ。
 なら、お礼代わりになるかはわからないが、できる限り彼女の望むことをしてあげよう。
「ありがとう」
 僕はかがんで彼女の頭をなでた。
 すると少女ははにかみながら、嬉しそうに笑った。僕はその表情に、懐かしさを感じた。
 
 
 自宅に着いたときには雪はやんでいた。すっかり暗くなった空をもう一度だけ見上げ、僕は部屋に入った。
 カーテンを閉め電気を点ける。そして僕は本棚からアルバムを引っ張り出すと、すぐに一枚の写真を見つけた。
 そこには、小さな女の子がカメラを向けられたことに対して、恥ずかしがりながらも微笑んでいる姿があった。
 先ほど別れた少女と同じ顔だった。
 だがこの写真はあの子ではない。僕の妹が小さかった頃のものだ。
 まさか同じ顔の女の子に会えるとは思っていなかった。
「もう何年だろう。四……六年、かな。早いもんだ」
 アルバムをめくって他の写真も探してみた。僕のアルバムなので自分の写真が中心だが、一緒に写っているものもある。僕と妹はあまり似ていなかったのが並ぶとすぐわかる。
 懐旧の情と寂寥感がやってきた。妹は僕のことを慕ってくれていたが、僕はあまりよい兄ではなかったように思う。小さいとき、もっと優しくしてあげるべきだったと後悔している。
 ──だけど、今更何言っても、ね。
 そのとき、チャイムが鳴った。
 壁時計を見る。約束の時間になっていた。アルバムに読みふけってしまったようだ。アルバムを棚に戻し、立ち上がった。
 もう一度チャイムが鳴る。
 僕は玄関の扉を開けた。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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