諸々日記

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継がれるもの

文字数4000字。
ジャンル:えーと……文学?自分自身では区分けが難しいです(^_^;)

あらすじ:
ひまわりと少女。
その構図がやけに頭に残って、私はしばらくその地へ逗留することを決めた。
だが、私がこの地を旅立つ日も近づいてきた──






 それが目に留まったのはここを訪れた直後のことで、そこを通りがかったのは単なる偶然だった。
 麦わら帽子の少女が、自分の背丈の二倍はあろうひまわりを見上げている姿。
 その映像が頭から離れなかったことが、私をこの土地に引き留めたのだろう。何気ないその光景は、しかし何故か私の心深く入り込んできた。
 何故なのか。その問いに対する答えを求めて、私にしては珍しく一つところへの逗留が続いている。
 訪れた当初もなかなか良い土地だと思っていたが、滞在を続けるうち、次第にこの土地の新たな表情が見えてきた。そしてそれは非常に魅力的だった。
 私は毎日辺りを散策した。ここは空が青く、風は穏やかだった。畑では美味しそうなスイカがなっている。そういえばスイカなんていつから食べていないだろうなどと考えながら畑を見ていたら、泥棒と間違えて追い払われてしまった。それでもここの人々の多くは親切で、気のいい人たちだった。人口は少なく、生活の便利さも都市部と比べると雲泥の差がある。でもそれはそのまま幸福度の多寡とは結びつかないようだ。笑顔の多い土地だった。そしてそれは見ているだけの私をも幸せにした。当たり前の毎日が、心地よかった。
当てもなくぶらぶらとあちこちさまよったあと、ひまわりのいる丘を訪れるのが私の日課となっていた。
私は今日もその丘へひまわりに会いに行った。
 いつものように、ひまわりはひとりだった。
 丘は何もない、ただの丘だ。頂点に大きな木がひとつ、ぽつんと立っている。それとこのひまわりがある以外は、青々とした草が茂る野原ばかりだった。丘の上からはこの辺りが一望できる。三方を山に囲まれた小さな集落。私はここから見える風景がとても気に入った。
 ただ、ひとつ気になることがあった。あの少女とその一家は、こんな何もないところに何の用があってきたのだろう。
「調子はどうだい」
 私はひまわりに話しかけた。
 返事は返ってこない。それでも私は彼の横に座りながら丘の斜面を撫でるように吹きつける風を感じていた。
ひまわりはだいぶ元気がなくなってきている。その頭はまだ毅然と上を向いているが、よく見れば花弁も葉も水分が抜けしおれてきているのがわかる。それも当たり前か。少女のいたあの日からもうずいぶん経つ。彼の命の灯もそろそろ消えてしまうのかもしれない。
私はまだ答えを見つけていない。
「私はそろそろ戻るよ。今日も付き合ってくれてありがとう。壮健でな」
 風を身体で受けながらゆるゆるとするのをしばらく楽しんでいたが、にわかに空模様が怪しくなってきた。そろそろ頃合いと見て、私はひまわりに別れを告げた。
 ひまわりはやはり何も言わず、ただ空を向いて揺れていた。
 

 
それから二日間雨だった。辺りを回れないのは残念だったが、急ぐわけでもない、元々目的などない旅なのだから、こういうのも風情があってよいかもしれない。私はその二日間を仮宿で過ごした。
ただひとつ、ひまわりのことが気がかりだった。
そして三日目の午前。見事なまでの快晴だったが、これも正午を過ぎる頃、瞬く間に崩れてきた。厚く黒い雲が頭上を覆い、辺りは夕暮れかと見まがう暗さだった。
私は少し考えて、ひまわりの様子を見にあの丘へ行ってみることにした。この際多少濡れるのは覚悟しておこう。
 幸い、丘へ到着するまで空はぐずつかず持ち堪えてくれた。
ひまわりはこの二日間でずいぶんとしおれてしまった。大輪の花はもはや空を見上げることができず、打ちつける雨に多くの花弁を散らしていた。強度を失った茎は自重を支えることができずに曲がってきている。
 確実に死が近づいていた。
「私が答えを見つける前に、おまえさんは行ってしまいそうだね」
 彼の死が近いということは、私の出発もまた迫っているということになる。結局私は何のためにここにとどまっているのか、理由を見つけられないまま次の旅へ赴くことになりそうだ。
 私は彼の傍に腰を下ろした。下を向いた大輪が頭上から私を見つめている。私は微笑んで、まっすぐ前を見つめた。
 答えが見つからなくても、この逗留は価値的だった。それで充分と、私は結論づけた。
 ──だが運命とは皮肉なものだ。私が答えを探すことを止めた瞬間、それは向こうから私の元へやってきたのだから。
 空は突然に、今まで我慢していた分を取り返すかのように、激しく泣き出した。
 それと同時。近づいてくる車のエンジン音を耳にした。
 私は素早く丘の上の木の陰に身を隠した。人に姿を見られたくなかった。一方で私はやってきた人物へ興味を持った。こんなぐずついた天気の日にピクニックでもあるまい。
 丘の裾に車が止まり、運転席と左後部座席の扉が開いた。中から二人の人間が出てきた。片方は大人。もう片方は子どもだった。
人影が見えた瞬間、あの子どもはきっとあの少女だと、直感で悟った。そして確かに彼女だった。
 少女は座席から飛び降り、地に足が着いたと思ったら既に駆け出していた。向かう先にはひまわりがいた。
 小さな影があっという間にひまわりの元にたどり着き、影は動きを止めた。
 土砂降りのなか傘も差さず、少女はひまわりと向き合っていた。少女は今どのような表情をしているのだろう。
 少女は、彼に何か語りかけているようだった。身体を動かしジェスチャーを交えながら、何かを伝えている。
 ひまわりは少女の言葉に何を想うだろうか。
 だが彼が何を考えてもそれを少女に伝える術はない。人間と植物は言葉を交わすことはできないのだから。
 私はもうひとつの人影がこちらに近づいてきていることに気がついた。身を隠したまま、注意を引かないよう様子をうかがった。
 こちらは少女の父親だろうか。頭髪には白いものが混じり、顔にはしわも刻まれているものの、意思の強そうな精悍な顔つきをしている。彼も傘を差していなかった。当然、ずぶ濡れだ。それも厭わず、男はじっと、大樹を見つめていた。そして大樹はその枝葉で、男を打つ雨を和らげていた。それに彼は気づいているのだろうか。
「これが見納めか」
 男は一言だけ呟いた。その後は彫像のように仁王立ちのまま、大樹を見上げていた。その光景はまるで過日の少女とひまわりのようだと思った。
 男の大樹を見上げる目は真剣だった。厳しく、穏やかだった。
 その姿を見て、この男は少女の父であり、少女は彼の娘なのだと確信した。頭の中にあるあの時の少女を思い出す。少女の目は父の強さと優しさを確かに受け継いでいる。私は自然と微笑んでいる自分に気がついた。
 携帯電話の電子音が響いた。男が電話を取り出して通話を始める。受話口から女性の声が漏れ聞こえてくる。誰だろうか。
「わかった。すぐ戻るよ」と言って電話を切った男は、最後に一度だけ大樹を見上げて、車へ向かった。大声で少女にも戻るよう促す。少女はその声に反応し、ひまわりに手を振ると、車へ向かって一目散に走り出した。
 車に目をやると助手席にもう一人いるのが見えた。おそらく男の妻であり、少女の母だろう。雨の中身をさらし続ける家族の身体を案じたのか。
 車は去っていった。私は木陰で雨をしのぎながら彼らを見送った。
「あの口ぶりだと、あの人とはもう会えないのかもしれないわね」
 大樹が口を開いた。私は隣の彼女のことを見上げ次の言葉を待った。
「時々来ては、今みたいに黙ってじっと私のそばに立ってるの。たまに幹に手を置いたりして、納得したら帰るみたい。小さい頃からそう。あっという間に変わっていくと思っていた人間にも、案外変わらない部分もあるのね」
そう言って彼女は優しく笑った。私もつられて笑う。
何気ない光景が目に留まった理由。その答えが今見つかった。
 

 
 ぶ厚い雲は残したまま、雨は上がった。泣き疲れて、一時の休憩に入ったようだ。今のうちに宿に帰らねば、私もあの親子のようにずぶ濡れにならなくてはならない。
 だがその前に、私はひまわりの元へ向かった。
 今の雨が彼の終わりを近づけたようだ。すっかりと花弁を落とし、大輪はますます下を向いている。私よりも背の高かったひまわりが、今は同じか少し低いくらいだ。
 でもその姿には悲愴感はなかった。
「少女との再会はどうだった。彼女は君に何を語ったんだ? よかったら教え……いや、そりゃ野暮か。彼女は君に何を見ただろうね」
 もはや彼が口を開くことに期待していなかった私は一人で話していた。彼に話しかけるのもこれが最後だろう。
 そうするうちにぽつぽつと身体に当たるものがある。時間切れか。私は空を見上げた。
「ずっと空を見ながら」
 初めて聴く彼の声は、凜として透き通るような音色だった。私は彼を見据えると、じっと耳を澄ました。
 彼は、例えば我々が懐かしい過去を思い出す時そうするように、感慨深げな声で次の言葉を継いだ。
「空を見上げながら、この大空を飛んで回りたいと考えていたんだ」
 ひまわりの大輪は地を向いたままだ。だが私には、彼が確かに私を見た、そんな気がした。
「だから次は、君のような美しい翼を持って生まれてくることにしよう」
 そしてひまわりは何も言わなくなった。彼の命は終わり、彼の身体は次の世代を残すための時期に入ったのだ。
雨が身体を打つことも気にせず、私は彼を見つめた。
彼の生に思いを致し、一礼する。
「ありがとう。この翼は自慢だからね」
 それだけ言って、私はそこを飛び立っていった。
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