諸々日記

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まどろみ

文字数10000字。
ジャンル:ファンタジー

日常的に盗みを働きながら生きてきた主人公。
ある時、痛みで目を覚ますと、とあるハンターに保護されていた。
「ゴロツキにボコられていたのを、俺が助けたんだ」
そこから、主人公とハンターの交流が始まる──

掲載作品の詳細は、『更新情報』の「READ MORE」をご覧下さい。










 お、目が覚めたか。気分はどうだ? 布団で寝たのなんて久しぶりだろきっと。
 焦るなよ。ここは俺の家だ。監獄じゃない。お前を突き出す気もない。安心しろ。
 うーん、信じてないな。やれやれ。お前、何があったか覚えてないのか? そう、さっきのことだよ。思い出してみろ。
 ……そう、わかってるじゃないか。で、ボコられてたお前を助けたのが俺なんだけど、それは覚えてるか? ……そうかい。都合のいい脳ミソだな。まあともかく、助けたのは俺なんだ。そのわざわざ助けた相手を、家で介抱してから警吏に突き出す意味があるか?
 ん、何だ? ……ああ、うん、なるほどな。確かに、なんで助けたのかは気になるよな。逆の立場だったとしたら俺も同じ疑問を持つだろうね。『こいつもしかして、俺を奴隷商あたりに売り飛ばす気か!』ってね。
 おい。今のはものの例えだ。そんなあからさまに警戒するんじゃないよ。
 で、何の話だっけ? ああ、そうそう。お前の疑問はもっともだってことだ。けど残念ながら俺はお前の疑問には答えてやれない。何故か? そりゃ、助けた理由がないからだ。理由なんて、なんとなくだよなんとなく。
 もうちょっと詳しく説明するとな、お前をボコるのは本当は俺の役目だったんだよ。お前があの店でちょくちょく盗みをやってるの、ばれてたんだぜ。だから店主に俺が雇われたってわけ。お前をとっ捕まえてくれってな。
 あ、まあここまで言えばわかると思うけど、お察しの通り、俺はハンターだよ。一応この街お抱えのね。まあこの街は、裏手にあるアロイソ山にも大したモンスターはいないし、時々大量発生した野生生物の狩りの仕事がくるくらいでずいぶん平和なもんだけどな。その分住人たちの依頼を引き受ける何でも屋としての仕事が増えてるんだけど、まあこれはこれで楽しいからいいんだけどさ。みんな優しいし。飯くれるし。金も入るし一石二鳥。けどさ、やっぱ俺もハンターだから時にはこの力を振るいたくなる日も……ん?
 ……ああそう。興味ないのね。そりゃすまんかった。
 で、何だったっけ? 話の流れ忘れるの、これで二回目だな。やばいな、最近ボケが始まったかな。えーと俺がハンターだってことは説明したから……あれ、なんで説明しようと思ったんだっけ。
 あ、そうか。俺が雇われてたって話から脱線したのか。すまんすまん。
 で、だ。
 俺は店の近くでお前を待っていた。いつもお前はあの店の前を通る時に店先の品物をかすめ取っていくから、その直後を捕まえようと思ってたんだ。そして予想通り姿を見せたお前は、これまた予想通り盗みを働いた。このとき俺はまったく乗り気じゃなかった。だってガキを殴る趣味ねーもん。けど仕事は仕事だからやらなきゃならない。俺は動こうとした。
 だがここでお互い、お互いってのは俺とお前のことだけど、お互いにとって予想外の方向へ発展した。
 お前が盗むところを街のゴロツキどもも見てやがったんだ。俺が捕まえる前に、お前はあいつらに捕まった。
 あん? 理由? あはは。あんな連中が正義感で動くわけないだろ。あいつらがお前を捕まえたのは、きっとたまたま虫の居所が悪かっただけだろう。たまたまいらいらしていた奴らの目の前で盗みをして、それがたまたま見つかった。運が悪かったと言えばそれまでだが、世の中案外そういう風にできてるもんだよ。お前は、誰かを困らせた分の報いを受けたんだ。これに懲りたら盗みなんてもうやめることだね。次も俺みたいな奴が都合良く現れるとは限らないからな。実際、あのまま殴られてたらきっと死ぬか、よくても重い後遺症が残ったかもしれない。あいつら容赦なかったからな。早い段階で止めに入って正解だった。まだ痛むか? 骨や内臓はやってないはずだから、まあ自業自得、高い授業料だったと思って諦めるんだな。
 ここまで言えば、もうわかるだろ。俺はずっとお前を見てて、このままじゃお前が殺されるかもしれない。見て見ぬふりを決め込むこともできたけど、それは後味悪すぎるだろ。俺はそこまでひどい奴じゃない。でももし俺が無関心だったら止めには入らなかった。
 だから、お前を助けた理由はない。なんとなくなんだ。わかったか?
 納得したみたいだな。
 お前、これからどうするんだ。あ、さっきも言ったけど盗みはやめろよ? 今度捕まえるのはゴロツキじゃなくて俺になるかもしれないし、そうしたら俺がお前をぶちのめさなきゃならなくなるんだから。一回助けた相手をぶちのめすこっちの身にもなってみろ。きっと虚しくて仕方ないぞ。ちなみに俺も容赦ないからね。今日の奴らと違うのは、死なないようにとっちめることができるだけで。俺の方がつらいかもなあ。ふふふ。
 だから盗まなきゃ済む話なんだって。別にいたぶるのが趣味とかじゃないからね? そんな変人を見るような目で俺を見るんじゃない。
 ん……おっと、そろそろ時間だ。これから仕事だからもう行くけど、お前、今日は泊まっていけ。俺が帰るのは明け方だけど、それまで大人しくしとけよ?
 じゃあな!
 

 
 あ!
 お前、どのツラ下げて俺の前に出てきやがった! 大人しくしとけっつったのに、家のもん盗みやがって、恩を仇で返すのかお前は。ガラクタ置き場にあったものとはいえ、俺のものは俺のものだ。
 言ったよな、今度やったらぶちのめさなきゃならないって。他人のもの盗んだからぶっとばすってのはまだ気が引けることもあるが、自分のものだったら話は別だ。こてんぱんに叩きのめしてやるから覚悟し……。
 なんだ命乞いか? 違う? ……おい、この金はどうした。まさかお前。
 違うのか。うーん、信じられないな。じゃあこの金どこから出してきたんだ。
 なに、売った? あのガラクタを? 売れたのかあんなボロっちいのが。
 へ? 中に何があるって? というか、中身なんてあったのかあれ。俺はてっきりただの……。
 なっ、中身はそんな値打ちものだったのか! ……危ない、捨てるところだった。いやあ、少し前に狩った獲物が落としたんだけどさ。一応持ち帰ったはいいが、俺がいつも利用してる仲介屋はどいつもこいつも「ただのゴミだ」っつって買い取ってくれなかったんだよ。あいつら、ヤブだな。取引相手変えるか。
 にしてもお前、よくわかったな。目利きでもできるのか?
 ああ、なるほどね。伊達に盗みはやってないってわけだ。
 で、あれを売り払って、その金をなんでわざわざ俺のところに持ってきたんだ。これだけあれば、盗みなんかしなくてもしばらく暮らしていけるだろ。
 なんだよ、急に改まって。お願い? この金と引き換えにってことか? 依頼の報酬にしては多すぎるぞこれは。まあいいや、金が入るなら何も問題はないし、いいぜ。引き受けよう。内容はなんだ。
 ……はあ? 弟子入りって……俺にか?
 ぷっ、あはははははは!
 いや悪い悪い。あまりにも予想外だったんでつい笑っちまった。別に馬鹿にしたわけじゃない。
 答えはノーだ。やめとけやめとけ。
 ……まあ確かにお前の言う通り貧乏してるけどさ。弟子はとらん。理由は単純だよ。そんな柄じゃないし、そのつもりもないからだ。面倒だし。金を積まれれば依頼は受けるが、弟子を取るとなると話は違ってくる。
うるさいなあ。何を言われても俺はお前を弟子になんてしないよ。
 うーんしつこい……あっ。そうだ、これから仕事だった。いやあすっかり忘れてたなあ。あっはっはー。というわけで、行くわ。その金はお前のものだから大切に使え。ガラクタの中からお宝を発掘したのはお前だ。俺は俺でなんとかやっていくからさ、別に気にしなくていいぞ。それじゃあな。
 あーあー、聞こえないなあ! わっはっは!
 

 
 毎日しつこいなお前も。弟子にはしないって言ってるだろ。どうしたら諦めてくれるんだ?
 だから言ったろ、理由は。これ以上何を聞きたいんだ。
 お前が納得できるかどうかなんて、俺は知らないよ。それ以上の理由なんて……あるけど、説明するのがめんどくさいんだよ。いや、面倒というより、上手く説明できないんだ。上手くできない説明聞いたってどうせ納得なんてできないんだから、「性に合わない」「めんどくさい」って理由で納得してくれればお互いハッピーなんだってば。
 あーもう、わかったよ! わめくな。聞けば満足するんだな? 約束だぞ? 約束は守れよ。
 うん、いい返事だ。
 さて何から言ったものか。えー、まあ簡単に言うとな、お前を弟子にしたくないんだ。面倒だから、とかじゃなくて、とにかくしたくない。だからさっき言った理由は、はっきり言うとただのこじつけだ。
 まあ最後まで聞けよ。なんで弟子にしたくないかっていうとな、責任が取れないからだ。考えるほどハンターの世界は甘くない。命を落とすかもしれないし、二度と動けない身体にされるかもしれない。実力がない奴は、簡単に逝っちまう。お前に万一のことがあった場合、俺は責任が取れない。
 そう言うと思ったよ。けどな、たとえお前がよくても俺は嫌なんだ。俺と関わらなきゃ、お前はちゃんと成長して、恋人でも作って、結婚して、子ども作って、歳を取って幸せに死ぬこともできたはずなのに、おれと関わったばっかりに道ばたで無惨な死を遂げる。俺はそんな重いもの背負って生きていく自信はないよ。ましてやお前はまだ……いくつだ? 身寄りがないから自分の歳もわからないか。まあ見たとこ十四、五ってところだと思うけど、まだまだこれからじゃないか。だったら尚更だ。これが理由だ。
 納得できなくて当然だ。俺の都合だもの。けど理解はできたはずだ。逆の立場ならお前もきっとそう言うさ。
 わかってくれたみたいだな。
 ……え?
 何だって? もっとはっきり言えよ。
 わけがわからないな、なんで俺が卑怯者なんだ。
 おい、何だよ急に。卑怯とかチキンとか、うるせえよ! まったく、俺はお前の幸せを思ってだな……。
 俺が逃げてるって、何からだよ。言いたいことがあるならはっきり言ってみろ。
 …………。
 覚悟がない、か。なるほどな。
 確かに、言われてみればその通りかもしれない。お前が俺の弟子として悲惨な最期を迎えるということは、つまり俺がお前を守りきれなかったという前提になってる。自分が失敗することを前提に話を進めちゃ、逃げてると言われても仕方がないな。うん、そうだ。なんでこんなことに気がつかなかったんだろう。「俺は無力です」って言ってるようなものじゃないか。
 ん、なんだその顔は。俺が反論しないのが意外か? でも、お前の言っていることは正しいと思うぞ。
 よしわかった。覚悟を決めようじゃないか。お前の命を預からせてもらう。いいな?
 ははは、変わり身が早いのは俺の得意技だ。たとえ今まで敵だったとしても、俺は相手の言い分に納得すればすぐにでも味方になるぜ。自分に正直なんでな。
 で、お前はどうだ? 覚悟を決めるか? 厳しい道になるぞ。
 オーケイ、さすがだ。言葉に偽りはないな。
 今から俺とお前は運命共同体だ。俺はお前を全力で育てる。お前は死ぬ気でついてこい。ただし、本当に死ぬのはナシだ。いいか、実戦と観念は違う。さっきはああ言ったが、お前がこれからハンターとしてやっていく以上、基本的に自分の身は自分で守らなきゃいけない。俺だってそうだ。自分を守ることより、誰かを守ることの方がずっと難しい。俺が守らなくても、死ぬなよ。わかったな。もちろん、生き残るための技術は全て伝えよう。あとはお前次第だ。
 自己紹介がまだだったな。俺はジャック。これからよろしくな。
 

 
 気配を消せ。音を立てるなよ。静かに……。
 見ろ。今まで何度か戦ったからわかるな。あいつら牙獣について、わかることを言ってみろ。
 ……おいおい。また忘れたのか。まったく、お前はいつまで経っても頭だけは成長しないな。いいか、牙獣と呼ばれるモンスターの特徴は……ま、見たまんまだな。大きな牙と爪を持つ獣どもだ。群れで会話ができるらしく、獣らしからぬコンビネーションで攻撃を仕掛けてくるから厄介だ。
 あの群れの中でも一際大きくて目立つ奴、あいつが群れのボスで、今回のターゲットだ。
 手はずは覚えてるな。俺は周りの牙獣を相手する。お前一人でボスを狩れ。これは一種の試験だ。お前の力試し。ただし実戦であることに変わりはないことは忘れるな。
 そんなに緊張するな。お前はよくやってる。ほんの三年足らずでこれほど成長した奴は見たことがない。以前殺されかけた恐怖が残ってるのかもしれないが、だからこそお前は一人であいつを倒さなきゃならない。なあに、今のお前なら大丈夫だ。自信を持て。
 心の準備はできたみたいだな。顔つきでわかる。本当に、頼もしくなったもんだ。期待しているよ。
 ……よし、行くぞ!
 

 
 おう、お帰り。ずいぶん遅かったな。どうだった。
 これが今回の収穫か? どれどれ……。おお。ずいぶんとレアな素材が手に入ったじゃないか。
 なに、二体の飛竜を相手に? よく無事だったな。お前もそこまでの力がついたのか。最初に一人で狩った大型モンスターは、牙獣だったか? あれからまだ一年しか経ってないじゃないか。ここまで急に伸びるとはさすがに思わなかったよ。恐ろしいほどの才能だな。
 ……ん? ちょっと待て。怪我してるじゃないか! よく見ると鎧もずいぶん傷だらけだ。痛むか? 当たり前だ。よくここまで平気で歩いてきたな。
 何があった? 答えろ。
 体当たりで吹っ飛ばされたって……馬鹿、そんなあっさり言うことか。無理はするなといつも言っているだろう。さっき褒めたのは取り消しだ馬鹿弟子。
 ちょっと待っていろ。今手当てする。奥から薬草やなんかを持ってくるから、防具を取っておけ。
 …………。
 準備できたか。痛むところはどこだ?
 脇腹と、背中だな。よし。
 やれやれ、あちこち傷だらけだ。本当にだいぶ無理したみたいだな。馬鹿め。
 なんだ不満か。馬鹿を馬鹿と言って悪いことがあるか馬鹿。馬鹿と言われたくなけりゃ、そしてこれから先もハンターを続けたいなら、無理はするな。
 お前は返事だけはいいなあ。
 にしても、この無謀さは若さなのかねえ。俺だってまだギリギリ二十代だってのに、お前を見てると自分がずいぶん年老いた気がしてくるから不思議だよ。
 ……ほんと、お前の身体はずいぶん傷だらけになっちまったな。自分で見える大きな傷は腹のやつだけかもしれんが、背中もずいぶん痕がのこっているよ。
 気にしないって……お前だって女の子なんだから、少しは気にしろよ。
 いやいや。ハンターだから気にしなくていいってこともないだろう。凄腕だけど美人で有名なハンターも何人かいるぞ。ま、ああいうハンターたちはこんな小さな街でお抱えハンターなんかやらないけどな。大抵都近辺で活動してるよ。別に女に限らず男もそうだけど、ハンターはむさ苦しいってイメージ、そろそろ払拭するべき時期じゃないかなあ。これからはオシャレなハンターが活躍する時期だ! ……と俺は思うよ。なんでって? そっちの方が楽しいじゃないか。今後のお前の使命だ。ハンターの未来をよろしく頼む。
 ん? うーんどうだろう。彼女たちに恋人がいるかどうかは知らないな。でも大抵のハンターやってる男どもはみんな狙ってたぜ。ハンターと一般人が付き合う話よりは、ハンターとハンターのカップルの方が多いかもな。やっぱり同じハンター同士、話も合うんじゃないか。
 え、俺? 都にいた頃は自分のハンターとしての技術を上げることに夢中で、女には興味なかったからなあ。この街に来てからは特に出会いもないし。というか、たぶん恋愛対象として見られてないと思う。あはは。は、は……。
 恋人か。ほしいのかな。そもそも相手が……あ、そうか。お前が俺と付き合えばいいじゃない。あはは、どうよ?
 ……え?
 あ、いや、その。冗談のつもりだったんだが……。
 責任取れって……いやまあ確かにお前をこの世界に引き込んだのは俺の責任だけどさ。
 なっ、誤解を招くようなこと言うな! 傷ものにしたとか、いや確かに消えない傷はお前の身体に残っちゃったけど、でもそれは……俺が責任取るのか? うう? わけわかんなくなってきたぞ。
 ……っ! お前なあ! 誰が顔真っ赤にしたか! 馬鹿、焦ってねえよ!
 まったく。からかうのも大概にしろって。
 は? どう思うって、お前まだ……!
 ん、真面目な話、なのか。
 ……可愛い方だと、思うぞ。ハンターとして才能もあるし。誰が見ても魅力的だと思う。
 いやほんとに。実際街のみんなも噂してるよ。『ジャックはうまいことやって若くて美人の女を手に入れた』とか。
 …………。
 …………。
 …………っ!
 あーもう! なんで俺がこんなに恥ずかしがらなきゃならないんだよ!
 ほら、手当て終わったぞ! まったくもう、急に変なこと言うなよな。……いや、余計な話したのは俺か。
 ま、とにかく。終わったから道具しまってくるわ。あ、いいから動くな。じっとしとけ。晩飯の準備? 作ってあるから大丈夫だ。だから動くなよ。悪化しても困るんだから、いいな。
 …………。
 よし。大人しく待ってたな。偉い偉い。じゃあすぐテーブルに並べるから。
 ほい、ほい、ほいっと。はい、終了。
 ではいただきます。
 おお、さすが俺。うまいなあ。今日の飯は抜群の出来だ。そう思うだろ。
 今日の俺か? 特に何もないよ。この街は相変わらず平和だからな。
 変な噂? ああ、街の人たちがしてるやつか。俺も聞いたよ。ええと、なんだっけ。夜になると黒い影が街中を歩き回っている、だっけか。
 けどなあ。もちろん夜も見回ってるけど、俺以外の警備のハンター連中も含めて実際にそれを見た奴がいないからな。住民も話を聞いたことがあるだけで、それがどこから広まったのかわからないし。噂の一人歩きじゃないのかね。けど確かに気になるんだよな。
 ちょうどいいから教えておこうか。いいか、たわいもないような話ってのは大抵はそのまま何事もなく消えるもんだが、稀に大きな事件の前兆であることがある。だからこういった話には注意を傾けていかなきゃいけない。
 真偽を見極める方法か。難しい質問だな。絶対の方法はない。噂の信憑性を調査して、これまでの経験と照らし合わせて、あとは……勘だ。
 馬鹿にしちゃいけない。大事だぞ、直感てのは。判断材料がない時に、『危険なニオイ』を嗅ぎ取るんだ。それが生死の境をわける。一流のハンターはみんなこの直感が優れていると言われるくらいだ。お前も見たところ勘は鋭い方だと思うから、このまま頑張れば一流ハンターになれるかもな。俺か? もちろん俺は一流ハンターに分類される……って、最後まで言う前に笑うなよ。おい、流すなよー。悲しくなるだろ。
 冗談はさておき。この噂については、少し警戒しておいた方がいいかもしれないな。
 勘もあるけど、それよりも噂の広まるスピードが気になるんだ。
 お前、噂を聞いたのはいつだ? 昨日か。俺は一昨日だ。でも俺がその時聞いた話より、今日聞いた話では数段噂の内容が詳しくなっていた。何人かに話を聞いたけど、彼らが知っていたのは俺が一昨日知った内容ではなくて今日聞いたのと同じ話だった。
 お前が昨日聞いた話は今日みんなが話しているのと同じ内容だったんだな? てことは話のひな形は昨日完成して、それが二日間で街中に広まったってことが推測できるわけだ。噂そのものが発生したのは一昨日かせいぜいその一日前くらいで、その形が整う前に俺はたまたま聞いたんだろう。
 そう、ちょっと早すぎなんだこのスピードは。
 そうだな。その通り。ありえないこともない。たまたま早く伝わってしまっただけかもしれない。だけど確かに違和感を感じた。だから調べる。それが基本だよ。何もないならそれでいい。何かあれば、早めに手が打てる。損はないだろ?
 ふふん、見直したか? 最近は狩りの技術でお前に教えることも少なくなってきたからな。ちょっとは師匠らしくしないとね!
 え、俺が一昨日噂を聞いた相手?
 誰だったかな。えーと、一昨日って何してたっけ。いつも通り警備をして、そして……。
 思い出した。街の役人と今後の警備について話し合いに行ったその時に聞いたんだ。だから、警備局長の……。
 ちょっと待て。外の様子が変だ。
 なんだろう、見てくるよ。
 駄目だ、怪我してるんだから大人しくしてろ。でも一応防具は身につけて対応できるようにしておけよ。俺も準備しよう。
 じゃあいってくる。留守番頼むよ。
 

 
 なんとかここまで逃げられたか。
 ここから南にしばらく行ったところに村がある。道はわかるな。助けを求めるんだ。都に援軍を要請してくれ。
 俺は戻るよ。街の人たちを助けないと。
 お前は駄目だ。今言った通りだ。早く逃げろ。
 何を言っても駄目だ。何度も言わせるな。時間が惜しい。無駄な問答をするんじゃない。援軍要請だって大事な仕事だ。
 駄目なものは駄目なんだ! わからないのか!
 ……一番最初に言ったこと、覚えてるか。お前の命を預かったあの日、言ったことだ。
 そうだ。自分の命は自分で守れ。覚えてるじゃないか。
 無理だ。確かにお前は強くなったよ。けど今は手負いだ。加えて相手は今まで見たこともないような連中だ。……亜人種なのかあれは? 人の言葉を話すが、あれじゃまるで伝説の……まあそんなことは今はどうでもいい。要するに、今のお前が戦うにはリスクのでかすぎる相手ってことだ。
 頼むからごねるなよ。……わかった。いいよ、ついてこい。ただしお前が来たら、俺はお前を守りながら戦わなければならない。俺にはお前の命を守る義務がある。師匠だからな。だが相手の戦力がわからない以上、俺も覚悟を決めなきゃいけない。お前の命を預かった俺の師匠としての覚悟だ。たとえ何が起きても、命に代えてもお前だけは守る覚悟。
 ……わかってくれたか。
 すまないな。なに、安心しろ。俺だって死にたくはない。「無理はするな」と弟子に言っておきながら自分が無理してちゃ説得力ないからな。ぎりぎりまで頑張って、それでも限界がきたら……決断しなきゃならないさ。わかってる。これも覚悟だ。次に繋げるために捨てる覚悟。
 泣くなよ。まるで俺が死ぬみたいじゃないか。泣くなって。ほら、な? 大丈夫だ。大丈夫。俺は生きてる。だから涙拭いて。そうしたら前向いて歩け。走れるなら走れ。泣くのは今じゃない。
 村で会おう。その時は、笑ってくれよ。俺はお前の笑顔が好きなんだ。
 またな、ユナ。
 
 

 
 
 低い唸り声が聞こえる。私はすっと眠りから覚めた。
 きたか。
 大樹の枝に身をくくって仮眠を取っていた私は、戒めを解くと、弓に矢をつがえ来たるべき時に備える。
 懐かしい夢を見ていた。ジャックの夢。彼と出会い、彼と別れた最後の日まで。あれからもう五年が経つ。早いものだ。
 結局彼は村にはこなかった。でも私は、彼が村に来てくれることを期待していない自分に気づいていた。
 事態が落ち着いたあと、私は街の様子を見に行った。酷い有り様だった。
ああやっぱりジャックは死んだんだと、私はその時理解した。
 彼の遺体は見つかっていない。だけどきっと、もう一度彼に会う望みはないだろう。
 劣悪な状況でもジャックは多くの住民を助けた。その事実に、私は彼の覚悟を感じた気がした。
 だがいかに彼がハンターとして実力があっても、あの戦いは厳しかったのだろう。だから死んだのだ。世界は甘くない。彼の口癖だった。
 けど、たとえ戦いで命を落としても、私の師匠は彼だ。彼以上のハンターには今までも、たぶんこれからも出会うことはないだろう。
 ばきばきと激しい音が近づいてくる。移動するターゲットが樹木をへし折る音だ。狩りが始まる合図。今日の獲物はずいぶんと元気がいい。手応えがありそうだ。
 大丈夫、無理はしない。自分に言い聞かせる。
 無理はするな。これも彼の口癖だった。私は彼の教えを忠実に守っている。自分の無謀さで、肝心な時に役立たずになるのはもう嫌だから。
 ターゲットの姿が見えた。弓を引き絞って狙いを定める。
「泣くな」と言いながら抱きしめてくれた彼の感触が不意に思い出された。あたたかいぬくもり。命の証。
 それが消えた瞬間、私は狙い澄ました矢を放った。
 ユナ。彼がつけてくれた名だった。その名を、彼が優しく呼んでくれるのが好きだった。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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