諸々日記

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かんざし細工

遅れました。すみません。
次回更新は31日予定です。








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 なあ、ちょいといいかい嬢ちゃん。
 ん? おい待てよ。待てって。逃げるなよ。別に怪しいもんじゃねえ。ただ、あんたが何してたのか気になってね。今あんたの懐に入っているもの……そいつをちょっと見せてくれないかい。
 あっ、おい!
 ──この道が袋小路なこと、知らなかったのかい。あんた、ここいらのもんじゃないね。
 さ、いい加減観念して、懐のもの見せたらどうだい。
 そうだ、初めからそうしときゃ無駄な鬼ごっこもしなくて済んだんだ。どれ……うん。なあ。このかんざし、どこで買った? ……盗ったのか。やっぱりな。逃げるのはどうもおかしいと思ってたんだ。まあ手段はどうでもいい。それじゃどの店から盗ったのか覚えてるか。……三つ目の通り? ……ああ、わかった。ビードロ細工の隣か。ということは、やっぱり間違いねえ。
 ん? 見逃す? 何を勘違いしてんだ。おれぁ与力でも同心でもねえよ。あんたが持ってたかんざしに目が留まったんで、ちょいと確認したかっただけだ。
 いや、違うか。なあ、これをおれに預けてくれないか。なに、盗むわけじゃない。千吉のところに持っていって……あ、千吉ってのはあんたが盗んだ露天商なんだけどよ、あいつに頼んで譲ってもらうか買い取るかするのさ。だからこれさえもらえりゃ別にあんたが逃げようが何しようがかまわねえよ。……ま、これに懲りたら盗みはもう足を洗った方がいいと思うがな。
 このかんざしは何かってか。はは、馬鹿。嬢ちゃん、目つきが変わったぜ。こいつぁいけねえ。だけどな、残念ながらあんたが期待するようなシロモノじゃねえよ。
 実はな、おれ……おれの馴染みがかんざし職人でね。まあ腕が悪くてロクな稼ぎはなかったんだが、これはそいつが作ったもののひとつなのさ。
 その職人なんだが、ごたごたに巻き込まれて二度と細工作りができない身体になっちまってね。腕を無くしたんだよ。それでやつは相当参ったようで自棄になった。今まで作ったかんざしも全部捨てて毎日飲んだくれてたんだよ。いろんなもんから逃げようとしたんだな。生活は荒れて、そいつはみるみる身を持ち崩していった。
 だけど奴は急に立ち直りだした。どうしたのかと思っていたら、どうやらいい女が現れたらしいじゃないか。やつのことを親身になって気にかけてくれるいい人でね。その女のおかげで、あと一歩のところでやつは道を踏み外さずに済んだと言ってもいい。
 ここからが本題だ。やつはその女に礼をしたくなったらしい。そしてかんざしでも贈ろうと思いついた。もちろん、かつて自分が作ったやつが一番いい。出来は悪くても、やつが全力で作ったものだからな。きっと喜んでくれるに違いない。そう思ったろうよ。だけど、さっきも言った通りやつは自分の作品で手元にあったものは全部捨てちまった。そこで、以前わずかに売れたかんざしがまだ市中に出回っていないか探すことにしたんだ。
 売った相手のことは覚えてたんだが、そいつがどこに店を出すかまではわからねえからあちこち歩き回って探してたんだ。俺がね。
 見ての通り、おれも片端でね。その縁でやつと知り合ったんだが、話を聞いたおれはこいつぁ一肌脱いでやらねえと、と手伝いを名乗り出たんだ。
 ……あ? 違う違う。おれの話じゃねえよ。おれはただの知り合いさ。
 だがまあ、ようやく見つかってよかった。あとはやつが頑張る番だな。
 それじゃこいつは預かるぜ。すまねえな。
 ……ああ。最後にひとついいかい。あんた、なんだってこんな出来の悪いかんざしを盗ったりしたんだ。 他にもいいものはたくさんあったろうに。
 ……そうか。ふふ、そうか。やつに伝えとくよ。もうひとつ土産ができたな。
 じゃ、ありがとな。
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